大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成元年(ヨ)2070号 決定

申請人 東坊城博子

〈ほか二名〉

右申請人ら訴訟代理人弁護士 高橋紀勝

同 土井隆

被申請人 合資会社雅叙園

右代表者代表無限責任社員 細川敏郎

右訴訟代理人弁護士 熊谷俊紀

主文

平成元年七月一日開催の臨時社員総会における被申請人と申請外株式会社雅秀エンタープライズとの合併契約書を承認する旨の決議の効力を停止する。

申請費用は被申請人の負担とする。

理由

一  申請人らは、主文と同旨の決定を求めた。その理由の要旨は、平成元年七月一日開催の臨時社員総会における被申請人と申請外株式会社雅秀エンタープライズ(以下「申請外会社」という。)との合併契約書を承認する旨の決議(以下「本件決議」という。)は、総社員の三分の二以上の同意により可決されたというものであるところ、商法は合資会社の合併につき総社員の同意を要すると規定しているのであるから、本件決議は右規定に違反してされたものであって無効であるというにある。

二  一件記録によると、被申請人の原始定款に定款変更及び合併に関する定めはなかったこと、被申請人は、昭和五二年六月三〇日、総社員の同意によって、定款中に、定款の変更は総社員の三分の二以上の同意をもってすることができる旨の規定を設けたことが一応認められる。また、被申請人が、平成元年六月一二日、臨時社員総会を開催し、解散について規定していた定款二八条を、「①会社の解散は議決権を有する社員の三分の二以上の同意を要す。②解散に伴う合併に関する合併決議並びに合併契約書作成等の合併手続についても右と同様とす。」と変更する旨の議案を、申請人らの反対を除くその余の社員の賛成によって可決したこと、被申請人が、同年七月一日、臨時社員総会を開催し、申請人らの反対を除くその余の社員の賛成によって本件決議をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

三  申請人らは、合資会社の合併が総社員の同意を要するものであり、したがって、右定款変更決議及び本件決議はいずれも法令に違反するものであって無効であると主張するので、その当否について判断する。

商法一四七条、九八条は、会社が合併するには総社員の同意を要する旨を規定するが、合資会社の合併は、その内部関係に関するものであり、同法一四七条、六八条によると、このような事項については、合資会社の本質に反せず、かつ、公序良俗に反しないものである限り、定款で右規定と異なる内容を定めることも有効であると解される。しかし、定款の規定により合併につき総社員の同意を要しないこととすると、合併に反対する社員は、その意思に反して合併がされることにより、その社員たる地位に重大な影響を受けることになるのであり、法はこのようなことを予想して合併には総社員の同意を要するとしている趣旨からして、定款でこれと異なる規定を設ける場合には、そのこと自体について総社員の同意が必要であると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、被申請人が、昭和五二年六月三〇日、総社員の同意によって、定款中に、定款の変更は総社員の三分の二以上の同意をもってすることができる旨の規定を設けたうえ、平成元年六月一二日開催の臨時社員総会において、右定款の規定に基づき、会社の合併決議並びに合併契約書作成等の合併手続については総社員の三分の二の同意を要する旨定款に規定するとの議案を、申請人らの反対を除くその余の社員の賛成によって可決し、更に、同年七月一日開催の臨時社員総会において、申請人らの反対を除くその余の社員の賛成により本件決議をしたことは前記のとおりであるところ、右の事実によると、本件決議が総社員の同意によってされたものでないことはもちろん、合併手続についての前記定款変更もまた総社員の同意によることなくされたというのであるから、本件決議は法令に違反するものであるといわなければならない。

四  以上の次第であり、また、本件仮処分申請については、保全の必要性についてもその疎明があるので、被申請人のため申請人らに共同の担保として金八〇〇万円を立てさせたうえ、これを認容することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 佐賀義史)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例